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「私と河合塾」-OB・OGが語る河合塾-: Vol.97 (2017年11月24日公開)

  • デザイン・アート関連
  • 河合塾美術研究所
美術家 笛田 亜希さん

対象物を深く理解するまで<br />対峙し続ける姿勢を<br />徹底的に鍛えられたことが<br />現在の活動の原点になっています。

  • 美術家 

    笛田 亜希さん

    出身コース
    河合塾美術研究所

「美大進学をめざして、専門的な勉強をスタート」

・・河合塾美術研究所に通うようになったきっかけは何ですか。

 小さい頃から絵を描いたり、モノをつくったりするのが大好きでした。中学時代は絵画の通信教育を受け、ポスターのコンクールなどで入賞したこともあり、早い時期から美大進学を希望していました。高校1年のバレンタインデーのとき、友人から「好きな男子生徒にチョコレートを渡したいので付き添ってほしい」と頼まれ、訪れた場所が美術研究所でした。その男子生徒から「美大をめざしているのなら、早めに専門的な勉強をスタートさせた方がいい」とアドバイスされ、さっそく通うことにしました。

「周りのレベルの高さに刺激を受けるとともに、基礎的な技法を初歩から教えてもらえた」

・・河合塾美術研究所で学んで良かったことを教えてください。

 小中学校では絵が上手とほめられることばかりで、プライドを持っていました。ところが、美術研究所に入り、先輩や同級生の作品を見て、あまりのレベルの高さに衝撃を受けました。それからは、この人たちに追いつかなければいけないと、必死の日々でした。美術研究所に通わなければ、ずっと井の中の蛙状態で終わっていたかもしれません。

 基礎的な技術を初歩から教えてもらえたことも良かったですね。学校の美術の授業では、鉛筆でデッサンしていましたから、木炭にも触ったことがありません。木炭紙は凹凸があるので、木炭を寝かせてデッサンする必要があるのですが、そんな基本すら当時の私は知らなかったのです。ペインティングナイフ、油絵具、筆など、道具を選ぶ重要性も教わりました。発色がいい油絵具はどのメーカーのものなのか、線を引く際にはイタチの毛が最適といったことを教わり、「高価でも、なるべく良いものを使いなさい」と指導されました。

 何よりも大きかったのが、モノの見方の基本を徹底的に鍛えられたことです。デッサンの授業では、対象物に長い時間対峙し、そのモノを深く理解することの大切さを叩き込まれます。1個のリンゴを1週間見続けたこともあります。そうすると、リンゴは花弁の数が5つあるのですが、見続けるうちに5つの角が見えてきます。そうして自分が認識できたものしか、形に表現することはできないのです。対象物を見る際の意識改革が図られたことが、その後の活動の原点にもなっています。というのも、美術の世界では、大学は自分なりの表現を探す場所であり、入学前に基礎的な考え方や技術は身につけていることが大前提になります。もちろん、基礎を飛び越えて表現できる作家もいますが、私の現在の活動につながっているのは、美術研究所での基礎的な学びであることは間違いありません。

「多彩なジャンルに挑戦する中で、現代美術の世界に興味が生まれる」

・・大学時代に力を入れたことは何ですか。

 高校を卒業して2年後、東京芸術大学美術学部絵画科油絵に合格しました。大学でしかできないような活動をしたいと思い、広いアトリエや大きな機材が揃っている環境を生かして、ビッグスケールの作品に取り組みました。版画、写真、CGなど、油絵以外のジャンルにも挑戦しました。その中で、次第に現代美術に興味が移り、大学院の修了制作では、サラミでつくった人形を展示するインスタレーションを仕上げました。この作品はその後、廃校になった中学校で展示し、来場した子どもたちに実際に食べてもらいました。

「吉祥寺駅前の『ゾウのはな子』を制作」

・・卒業後の経歴を紹介してください。

 大学2年次から美術研究所で講師を務め、約10年間続けました。その傍らでさまざまなインスタレーションに取り組んでいます。とくにライフワークになっているのが「ゾウのはな子」です。井の頭自然文化園で飼育されていたゾウで、幼稚園の遠足で出会って以来、高校時代もよくデッサンに訪れ、愛着を感じていました。2016年5月に69歳で亡くなったのですが、生きているうちに何らかの形に残しておきたいという気持ちが強まり、絵画、彫刻など、さまざまな作品をつくりました。その1つが、吉祥寺駅前に設置されている銅像です。ちなみにこの銅像の名板は、美術研究所の同級生が制作してくれました。当時の仲間は、厳しい修行時代を共に過ごした「戦友」のような感じで、私にとって貴重な存在です。

「選択肢を広げて、自分の好きな世界を見つけてほしい」

・・後輩へのメッセージをお願いします。

 まずは自分の好きな世界を見つけることです。好きな世界なら、多少辛いことがあっても続けられるからです。ただし、現時点で興味を持っている分野が、必ずしも自分に向いているとは限りません。多様なジャンルの作品に触れて、選択肢を広げることが大切です。

Profile

笛田 亜希(Aki Fueda)

笛田 亜希(Aki Fueda)

1974年東京都生まれ。明星学園高等学校在学時から、河合塾美術研究所に通う。1999年東京芸術大学美術学部絵画科油画卒業。2001年東京芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画修了。生まれ育った東京武蔵野に愛着を持ち、その土地に関連した数多くの作品を制作する。作品は絵画(油彩、水墨、水彩)、立体のみならず、それらを用いたインスタレーションも行う。井の頭自然文化園で飼育されていた「ゾウのはな子」をモチーフに絵画・銅像などさまざまな作品を制作している。

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