「私と河合塾」-OB・OGが語る河合塾-: Vol.63 (2013年9月公開)
- 弁護士・公認会計士・税理士
- 大学受験科
- ドルトンスクール
幼少期にやりたいことを<br />とことん追求し自分で考えて、<br />意見を表明する力を育んだことが<br />臨機応変な対応力が必要な弁護士の<br />仕事にも役立っています
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エクセル国際法律事務所
弁護士岩田 憲明さん
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- 大学受験科
- ドルトンスクール
本物に触れる体験を大切にする学びが中学受験でも役立つ
・・ドルトンスクールに通われたのは何歳からですか。
2歳からドルトンスクール名古屋校に通いました。自宅から徒歩数分の距離にあったことと、両親には、いわゆる英才教育を行う幼稚園ではなく、自由な雰囲気のもとで、私の個性や考える力を伸ばしてやりたいという思いがあったようです。2歳の夏に、父の転勤で東京に移ることになり、ドルトンスクール東京校へ編入し、プレイグループ2歳児コース(週2,3日)に通っていました。しかし、東京の自宅からドルトンスクール東京校までは多少距離があり、3歳児コースで毎日の通学となると母の負担も大きくなるため、3歳児からは自宅にほどちかい幼稚園への入園も検討したようです。実際に近隣のいくつかの幼稚園も見学しましたが、私が「絶対にドルトンがいい」と駄々をこねて(笑)、結局、母が車で送り迎えして、東京校に通うことになりました。
・・ドルトン時代の思い出を聞かせてください。
屋上でさまざまな実験や実習をしたことをよく覚えています。本物の牛の目を解剖して、水晶体などの仕組みに見入ったり、自分たちで種をまき、育てて収穫した野菜を切って、カレーを作って食べたりしたこともありました。
そうした本物に触れた体験は、その後の中学受験でも役立ちました。幼児期に体験したことは、たとえいったん忘れても、5年後、10年後に文字で知識として触れたときに、「これはドルトンで体験したことだ」と、実感を伴って蘇ってくるからです。
ドルトンの経験から、私には、現物に触れて学ぼうという学習の姿勢が身に染みついていました。それも有意義だったと思います。たとえば、小学校3年生頃からは、一人で電車に乗って、あちこち巡っていました。もちろん、子どもですから、そんなに遠方まで出かけることはなく、当時住んでいた名古屋市内が中心でしたが、小学校で習う地理は地元のことなので、授業で学ぶことのほとんどが実体験を伴っており、よく理解することができました。
星座をきっかけに惑星、ギリシャ神話へと興味の幅が広がる
・・そのほか、ドルトンで印象に残っていることはありますか。
ドルトンは、自然な形で、子どもたちが科学に興味を抱くきっかけになるようなものが豊富に用意されていました。たとえば、クラスにはオリオン組、ケンタウルス組など、星座の名前がつけられていました。なぜこんな聞いたこともない名前なのだろうと(笑)、不思議に思い、先生に尋ね、星座だと教えてもらい、星座の本を夢中で読みました。そこから派生して、惑星のことを調べたり、ギリシャ神話を読破したり、興味の幅がどんどん広がっていきました。自分なりに詳しくなっていくと、それを誰かに話したくなります。ドルトンでは発表の機会も数多く設けられており、その伝えたい意欲も満たすことができました。
・・発表のときの思い出はありますか。
クラスの仲間たちの前では毎週のように、年に数回は全員の前で発表する機会がありました。星座の話が中心でしたが、先ほど申し上げたように、興味の幅はかなり広がっていましたから、周辺の分野についても発表しました。ドルトンには1つの分野に興味を持って、トコトン調べる「凝り性」のタイプの子どもが多かったので、他の子どもが関心を持っていることと重なる分野の話も出てきます。そうした子どもから鋭い質問をされたこともあります。それによって、もっと知識を深めようという意欲もわいていきました。就学前の年齢でありながら、お互いに詳しい分野なので、今思うと、けっこう知的な会話をしていた気がします。
・・小学校入学後も、ドルトンのアフタースクールに通われたのですね。
年長組の夏、再び父の転勤で名古屋に戻り、ドルトンスクール名古屋校に再編入、卒業しています。そのため、私は東京校と名古屋校の両方で教育を受けた数少ない実例でしょうが、基本的に教育内容や雰囲気は変わらなかったように思います。小学校入学後もアフタースクールに通っていました。その理由は、純粋にドルトンの雰囲気が好きだったからということに尽きると思います。アフタースクールで最も印象に残っているのはサイエンスルームです。担当の先生が常駐していて、実験器具を自由に使うことででき、いろんな理科の実験を楽しんでいました。
・・法律家をめざそうと考えられたきっかけは何ですか。
小学生の頃から、漠然とながらも、自分は法律家に向いているのではないかと感じていました。何しろ理屈っぽい子どもで(笑)、理論的に説明されて、納得しなければ、いうことを聞かない性格でした。そんな私に、ドルトンの先生方は、頭ごなしに命令したり、突き放したりすることは一切なく、子どもにも分かる言葉で、懇切丁寧に説明してくださいました。そんな環境が心地よかったですね。いずれにしても、理屈が大好きでしたから、子ども心に法律の仕事に適性があると感じていたわけです。
法律家をめざそうという意思が固まったのは、中学生のときです。祖父が亡くなり、相続の際に様々な問題が生じる様子を見て、自分に法律の知識があり、しかるべき立場にあればこうはならなかったのではないかと思いました。またこうして法律の知識がないばかりに損をする人が出てこないよう、法律家になろうと決意しました。
・・慶應義塾大学法学部入学後、力を入れた活動は何ですか。
学内の法律系サークルに所属していました。早稲田大学、同志社大学、立命館大学などと合同の法律討論会を例年行っていて、まず討論会に出場するための学内選考があって。夏休みも2日に1回、大会前は連日、キャンパスに集まり、議論を重ねていました。提示された法律テーマについて、学生が発表し、それに対して他大学の学生が反論する形で進められるのですが、どれだけ発表者を困らせるような質問ができるかがポイントになります(笑)。ドルトンで鍛えた発表力、質問力を発揮した甲斐あってか、毎日の議論の成果か、大学2年生の大会では優勝を果たすことができました。
・・サークル活動の経験は、司法試験をめざす上でも役に立つのですか。
大学卒業後、ロースクールに進み、司法試験の勉強をしていました。司法試験のための勉強は、一定の法律知識を備えていることを前提とした答案練習が中心になります。その際、各自が作成してきた答案のどの部分を修正すれば優れた答案になるのか、全員で討論していきます。知識を身につけているだけでは不十分で、自分で論理的に考えて、その意見を表現する力がなければ、ロースクール生同士の勉強ではついていけません。サークル活動で養った思考力、表現力は大いに役立ったと考えています。
・・大学卒業後の経歴をご紹介ください。
ロースクールで学んだ後、司法試験に合格。1年間の司法修習を経て、弁護士法人エクセル国際法律事務所に入り、弁護士を務めています。現在は、できるだけ多様な経験を積みたいと考えており、民事、刑事を問わずさまざまな訴訟案件を手がけています。その一方で、顧問先に介護関連の会社があり、その設立にも関わったことから、介護関連の法律についての専門性を高めることも目標にしています。介護の世界は、他の分野と比較するとコンプライアンス概念が立ち遅れている面があります。労働条件、入居者とのトラブル、施設の危機管理など、整備が不十分なケースが少なくありません。私なりにコンプライアンス体制の強化の支援をして、介護産業の発展に少しでも貢献したいと思っています。
・・将来の目標を聞かせてください。
昨年、国会議員政策秘書の資格を取得しました。弁護士の業務に携わる中で、司法だけで物事を解決するのは限界があるという思いを抱いており、いずれ政策秘書の立場で、法案づくりにも関与できればと考えています。
弁護士には反論を予想した上で主張を組み立てる力量が要求される
・・これまでのご経歴の中で、ドルトンで学んだことが生きていると感じていらっしゃることはありますか。
私にとっては、ドルトンで、自分で考えて、意見を表明する力を育んだことが大きかったと感じています。弁護士という職業は、指示されたことをやっているだけでは通用しません。たとえば、依頼者の話を聞く際、ただ聞くだけではなく、先方の反論を予想しつつ、当方の主張に沿う事実を依頼者から積極的に聞きだしていく力が要求されます。また法廷での尋問では、突如想定外の回答が飛び出してくることもあります。そんなときに臨機応変に判断して、依頼者に有利な方向に持って行けるように、適切な質問をしなければなりません。そうした力のベースは、ドルトン時代に自分でやりたいことを選択して、とことん追求したことや、皆の前で発表して、質問に対応したことなどを通して養われたと確信しています。
・・最後に、これから子どもをドルトンで学ばせようと考えている保護者に向けて、メッセージをお願いします。
注意していただきたいのは、親のいうことを素直によく聞く、いわゆる「いい子」になってほしいのなら、ドルトンは必ずしも向かないということです。ドルトンの教育で育まれるのは、自分の意思で行動する力ですから、上からの指示に単純に従うようなタイプにはなりにくいのです。けれども、これからの時代は、自分で考えて選択し、自分の力で道を切り拓いていく、そして自分の行動に責任も持つといった覚悟を備えた人材が求められています。そうした将来のリーダーに、大きく育てるのがドルトンだと、私は思います。
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岩田 憲明(Noriaki Iwata)
1983年生まれ。2歳から小学4年生まで、父の転勤に伴う転居により、名古屋と東京両地区のドルトンスクールに在籍。開成中学・高校、河合塾駒場校大学受験科を経て、2007年3月慶應義塾大学法学部法律学科卒業、同大学法務研究科修了。2009年司法試験合格。2010年より弁護士として活躍中。
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