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未来のマナビフェス2018 実施報告vol.4実行委員セッション
「今、私たちが伝えたいこと」

司会者:中原淳(立教大学)
登壇者:佐藤透(桐蔭学園)・平野多恵(成蹊大学)、真下峯子(大妻嵐山中学校・高等学校)、三浦隆志(岡山県立林野高等学校)、吉野明(鷗友学園女子中学高等学校)、下町壽男(前 岩手県立花巻北高等学校)

この「実行委員セッション」は、当初、「高校ケースセッション」として、1日目に各2時間の5つの分科会で行われる予定だったが、台風の影響で2日目のみの短縮開催となったため、急遽、設定されたものである。各分科会で予定されていた内容について、コーディネーターを担う高校の先生方を中心に、「今、私たちが伝えたいこと」として10分ずつ報告がおこなわれた。

明日のアクション、明日の授業、明日の生徒を見つめよう

中原淳 先生(立教大学)
中原 淳 先生(立教大学)

まず司会の中原淳教授(立教大学)が、本セッションの意義を明らかにする。物事を進めるためには視線の上げ下げが重要である。仕事に集中するときには視線を下げるが、時には視線を上げて中長期的な視点で教育のことを考える必要があるとした上で、「オープニングセッションや基調講演では視線を上げて中長期的なことを考えたが、このセッションでは、明日のアクション、明日の授業、明日の生徒を見つめよう」と語って、セッションを開始した。

【高大連携×アクティブラーニング】桐蔭学園 佐藤透先生、成蹊大学 平野多恵先生の報告

佐藤透 先生(桐蔭学園)
佐藤 透 先生(桐蔭学園)

桐蔭学園入試広報部長・経営企画室長の佐藤透先生は「大学と高校をつなぎ実現するアクティブラーニング」と題して、成蹊大学の平野多恵教授と共に、日本文学アクティブラーニング研究会の万葉集を学ぶワークショップについて報告した。問題意識は、「本質的に1つの教育機関のみで深い学びが実現できるのか」ということにあったと佐藤先生。桐蔭学園の高校生が夏休みにこのワークショップに参加することで、9月以降目に見えて変化していることを紹介した。

平野多恵 先生(成蹊大学)
平野 多恵 先生(成蹊大学)

続いて成蹊大学の平野多恵教授が、この日本文学アクティブラーニング研究会は2013年から続いていること、現在では8大学合同で行われており、高校生、大学生、大学院生、大学教員、高校教員が一緒に参加する場となっており、古典の学びとジェネリックスキル育成、キャリア教育をつなげていくことをめざしていることを紹介した。そして佐藤先生からは生徒たちも古典の多様な解釈に触れるとともに、ジェネリックスキルを高め、研究的視点や方法で大きな学びがあったこと、これから求められる主体的な学びのスキルを獲得していったことが報告された。

【義務教育と高校との接続】大妻嵐山中学校・高等学校 真下峯子先生の報告

真下峯子 先生(大妻嵐山中学校・高等学校)
真下 峯子 先生(大妻嵐山中学校・高等学校)

大妻嵐山中学校・高等学校校長の真下峯子先生は「義務教育(前工程)を意識したカリキュラムマネジメント」をテーマにした報告である。

現在、大妻嵐山中学校・高等学校では新学習指導要領に合わせて新教育課程を作っているが、大変苦労しているという。苦労している原因の一つには次のような問題がある。成績会議において教員たちは生徒の点数はわかっているが、生徒たちのコンピテンシーやリテラシーの変化は掴めていない。新教育課程を作るためには、義務教育でどんな教育をおこない、子どもたちはどんな力を身につけて入学してくるのかを知ることが、本来は必要ではないだろうか。

このような、多くの高校教員が共通して持つ問題意識に応えるために、戸ヶ﨑勤氏(戸田市教育委員会教育長)に義務教育段階での能力育成について語ってもらい、同時に実社会の変化については金井啓一氏(日本テラデータ株式会社)に「ビジネス界の動向とデータ主導型経済への変革~デジタルトランスフォーメーションと必要とされる人材~」をテーマに語ってもらう予定であったこと、その上で参加者と意見交換の場とする計画だったと、企画趣旨が報告された。

【探究型授業実践】岡山県立林野高等学校 三浦隆志先生の報告

三浦隆志 先生(岡山県立林野高等学校)
三浦 隆志 先生(岡山県立林野高等学校)

岡山県立林野高等学校校長の三浦隆志先生のテーマは、「大学・社会につなげる教育を実現する『探究』がキーワードになる!」である。

学校での探究活動は、習得・活用・探究という学習プロセスの中で語られることが多いが、それだけでなく3つの探究活動が有機的に結びつき、回っていく必要があると三浦先生は語る。3つとは、(1)総合的な学習の時間での探究活動、(2)教科での探究活動、そして(3)特別活動での探究である。これらの3つが結びついて回っていくことで、生徒たちはより大きな問いを立てることができるようになるのではないか。

また、小学校でも探究活動は始まっており、例えば小数点を習っていない児童に小数を理解させるために、靴のサイズには20cmと21cmの間の20.5cmがあることに気づかせ、そこから生活と結びついた探究活動へとつなげていく試みも紹介する。そして小学校から大学へといたる大きなスパンの中で、探究活動を考えていくことが大切だと報告した。

【長期的ルーブリックの活用】鷗友学園女子中学高等学校 吉野明先生の報告

吉野明 先生(鷗友学園女子中学高等学校)
吉野 明 先生(鷗友学園女子中学高等学校)

鷗友学園女子中学高等学校名誉校長の吉野明先生からは、「ルーブリックは入試に活かせるのか?」と題しての報告である。同校や山梨県立吉田高等学校、高槻中学校・高等学校では、教員の視点から生徒を評価するだけでなく、生徒の自己評価や相互評価を重視してきており、ルーブリックもそうした一環として導入してきたことが紹介された。

しかし、高校はまだ生徒の学び総体を測ることに成功しているとは言えず、ポートフォリオの活用なども試行錯誤の途上にある。そこで問題となるのが、ルーブリックがどこまで通用するか、という問題である。つまりルーブリックが評価だけでなく、評定として大学に持っていけるのか、入試に活用できるのか。そうできるようになるためには、大学の求めるものと高校で行っていることとの違いを正しく認識する必要があり、何を変えていく必要があるのかという問いが、すべての参加者に投げかけられた。

【学校の変革マネジメント】前 岩手県立花巻北高等学校 下町壽男先生の報告

下町壽男 先生(前 岩手県立花巻北高等学校)
下町 壽男 先生(前 岩手県立花巻北高等学校)

前岩手県立花巻北高等学校校長の下町壽男先生は、「カリキュラム・学校改革を進めるためのマネジメント」と題し報告した。カリキュラムマネジメントは学校改革を進めるためのものだが、現在では効率性重視のPDCAサイクルだけが注目され、目標達成、組織化、スケジューリング等々が重視されている。

こうなるとディフェンシブなイメージを抱かざるを得ない。また実際に、競争をモチベーションにしたり、トップにやらされている感覚だったり、コンテンツを詰め込んだり、という実態を生んでいる。

しかし、本来のマネジメントは人生をハッピーにするものであり、本当に大切なことを大切にし、組織と個人が一体化するもの、「ハッピーマネジメント」であるべきではないかと語る。そして、それはOECDの提唱するWell- Beingと同様の概念であるのではと問いかけ、幸せの尺度をいかに評価するのかを、これから多くの人と一緒に考えていきたいと結んだ。

探究せよというあなたは探究しているのか?

会場の様子

最後にまとめに立った中原教授は、これら5つのテーマに関する報告を通して、(1)つなげることの重要性、(2)議論しつくすことの重要性、(3)学びを生み出す学校をいかにマネジメントするか、という点に強い印象を受けたと語った。

そして、「あなたは『アクティブ』に学べという。そういうあなたは『アクティブ』に学んでいるのか? あなたは『探究せよ』という。そういうあなたは『探究』しているのか?」と問いかけてセッションを終了した。


※本文中の所属・役職などは開催当時のもの

※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。

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