未来のマナビフェス2019 実施報告vol.15リフレクションセッション
明日から始める「○○○」
登壇者:成田秀夫(大正大学)
未来のマナビフェスの最後には、実行委員の成田秀夫氏によるユニークなタイトルの「リフレクションセッション」が行われた。前半では2日間にわたるマナビフェスを振り返り、後半ではグループワークによって参加者相互が学びを深め合う、熱気あふれるセッションとなった。
個人の学びを振り返り、他の参加者と情報を共有するためのリフレクションセッション
成田秀夫 氏(大正大学)
リフレクションセッションは、成田氏によるイントロダクション、個人での振り返り、参加者同士の振り返りとラップアップで構成されたセッションである。まず成田氏は、昨年は台風の影響で実施日程が短縮されたことに触れ、「昨年は各セッションで学んだことを自分のものにするための時間が十分に取れなかったので、今年はその時間をしっかり設けたい」と本セッションに対する思いを語った。そのため、リフレクションセッションでは個人の振り返りに加えて、周囲の参加者同士で振り返りを行うための時間がたっぷりと取られている。また、セッションの冒頭では「日頃から学生や生徒にリフレクションの大切さを教えている我々自身がしっかりとリフレクションをしなければならない」ことも強調された。
「未来のマナビフェス」の“フェス”には、参加者に非日常的な祭のような空間の中で、普段の日常業務から開放され、沸騰してもらうことで、充実したイベントにしようという思いが込められている。発案者は実行委員会副委員長の中原淳氏だ。この祭を例に比喩的に考えると、祭の前は高揚感に包まれ、祭の最中は沸き立ち、活性化するのだが、祭の後は火が消えたように寂しい日常に戻っていく。しかし、「未来のマナビフェス」は、祭だけで終わらせてしまうのではなく、そこで得たものを普段の学びや業務に還元することをめざしている。そのための時間として、今回はリフレクションセッションが設けられているのだ。
「みんなではぐくむ学びの未来」に込められた 3つのポイントを読み解く
今回のテーマ「みんなではぐくむ学びの未来」は、言葉にすれば単純にも見えるが、実行委員会と事務局でかなりの議論を重ねて決めたものである。そのため成田氏は「参加者がこのテーマをどのように受け取るかは、マナビフェスが成功したか否かの重要な点になる」と見ている。
今回のテーマには「みんなではぐくむ」と「未来」と「学び」の3つのポイントがあるが、成田氏によると、「未来」について実行委員長の溝上慎一氏は、当初2030年よりもさらに先を想定していたそうだ。しかし、参加者がリアリティを持って議論するために、今回は2030年の教育をイメージすることとした。そして、「みんなではぐくむ」は非常に重要なポイントで、この言葉にはさまざまな意味を持たせている。
1つは高校と大学と社会の連携という意味である。マナビフェスは高大社が連携して実施されているが、すべてがつながることが非常に大切で、つながりのどこが切れてもいけないだろう。そして、もう1つの意味は組織である。各セッションでは、学校づくり、組織開発などのキーワードが出されていたが、これからは「みんなではぐくむ」ための組織をしっかりと考えていくことが必要となる。そして、「学び」とは、高校、大学では教育に当たり、社会では人材開発、人材育成に当たる。成田氏は「参加者の皆さんには、この3つのポイントをつなぎ合わせて、今後に向けた取り組みを考えていただきたい」と語りかけた。
3つのポイントでセッション全体を整理、 2日間の全体像を概観
成田氏はここで各セッションを先の3つのポイントによって分類し、今回のマナビフェスの全体像を改めて整理した。オープニングセッションでは、テーマに込められた3つのポイントが提示され、キーノートセッションでは、「見える化」をきっかけとした学校づくり、組織づくりがポイントだった。この「見える化」は非常に重要で、2030年の学びを考えるうえで、かなり大きなテーマとなるのではないかと思われる。また、各セッションの内容はオーバーラップする部分もあり、1つに分類することは難しいが、敢えて整理をすると、高校と大学のセッションは「学び」にアクセントがあるが、「みんなではぐくむ」という組織開発の観点も見られる。社会、企業のセッションはかなり「未来」志向で、教育関係者から見ると先に進んでいる印象もあり、勉強になるところがある。
そして、成田氏は、自身が参加した各セッションから得た学びを、先の3つのポイントに照らし合わせて次のように振り返った。
「未来」では、社会の変化と教育の関係が要点になる。カゴメ株式会社の事例に見るように企業の人材育成はかなり先に進んでいる。学校教育との溝は狭まりつつあるが、まだギャップは大きい。オープニングセッションでは、少子高齢化により生産年齢人口が落ち込む大変な時代になることが人口動態から予想されるため、教育機関は目の前の生徒・学生のことだけではなく、社会全体のことも考えなくてはならないと力説され、高校、大学、社会へと若者がスムーズに移行するトランジションが課題だと提起していた。それに対してキーノートセッションでは、社会に出て、仕事の世界で求められるものと教育機関で学ぶこととの差が大き過ぎることが指摘され、そこを乗り越えることが教育の大きな問題でもあると提起された。
多くの教育機関は、このギャップを埋めなくてはならないという認識はあるものの、現状ではまだ厳しい状況である。株式会社メルカリの事例などでは、企業は人材育成の前段階に当たる採用の段階で既に先進的に取り組んでいることが分かる。こうした取り組みは、大学もアドミッション・ポリシーと学生募集の点から学ぶべきものがあるだろう。そして、経済産業省からは、人生100年時代の社会人基礎力を新たに定義して、「何を学ぶか」「どのように学ぶか」「どう活躍するか」という、教育の世界ともつながる新たな3つの視点が示された。
次に「学び」だが、溝上氏がオープニングセッションで示したように、教員が一方的に教える教授パラダイムから、学習者が自ら学びを生み出す学習パラダイムへのパラダイムチェンジのためには、学習者には教授パラダイムを超える学びが求められている。そして、吉野明氏(鷗友学園女子中学高等学校)は2030年に生きていくために必要な力として、OECD「2030年に向けた学習枠組み」にご自身の知見を加えて、エージェンシーについて整理をされた。また、森朋子氏(関西大学)は、越境する学びとして、大学がビジネス界、地域、異文化、異なる専門性や初中等教育へと越境していく中で学びが深まると提言された。学びは学校空間だけに閉じられたものではないという新しい動きと見ることができるだろう。
「みんなではぐくむ」という点からは、溝上氏が言う、個の学習とグループでの協働の学習を往還する中で学びを深めていくことが大切である。中原氏は、そうした学びを学校づくりや組織開発に進めていくため、「見える化」によって意識合わせを行い、対話をして、ビジョンを実践するという4つのステップの必要性を示し、そのためのデータの重要性を指摘した。森氏も、異なものとの関わりとして、考動力、異なものに積極的に関わり己を知ること、異なる専門性を持った学生の協働、専門と教養の往還などの重要性を指摘していた。
こうした振り返りを成田氏なりに整理すると、Diversity(多様な人々や物事とよく触れること)、Agency(責任を持って課題を解決するような主体をどう育てていくか)、Community(仲間と協力していく、コミュニティを作っていく)という3つのキーワードとなり、その頭文字は大正大学が来年立ち上げる総合学修支援機構(DAC)と一致したと言う。
社会が変わり、個人も変わる。そして、個人の取り組みを支える組織づくりがこれからの鍵となる
イントロダクションの最後に、成田氏は組織づくりの重要性を「社会が変わり、そして個人も変わっていこうとしている中で、その個人の取り組みが、継続できるような組織でなければならない。この3つがうまく回っていくための学校づくり、組織づくりをどうやって進めていけば良いのかということは、実は今回の大きなテーマであり、これからの鍵となる」と話し、参加者には、学校など各々が所属する組織で、学びのイノベーションを普及させるための方法などについて、リフレクションセッションを通じて考え、明日につなげてほしいと結んだ。
その後、参加者が個人の振り返りを行い、参加したセッションで参考になったこと、次に活かせそうなことを各自でワークシートに記入した。続いて、周囲の参加者とグループを作り、個人で振り返った学びをシェアする時間、学びをさらに深める時間となり、最後にリフレクションセッションのタイトルにある「明日からはじめる○○○」の空欄を埋めるため、今後に向けた取り組みを各参加者が記入する時間が設けられた。こうして、グループでの意見交換の盛り上がりの余韻を残しつつ、拍手とともにリフレクションセッションは終了した。
※本文中の所属・役職などは開催当時のもの
※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。