このページの本文へ移動 | メニューへ移動

2020年度 第4回 対話のひろば 実施レポート“教員が学び合う学校づくり”について語ろう-学びを止めるな!

2020年10月11日 実施

2020年度対話のひろば第4回は「教員の学び合う学校づくり」をテーマに、10月11日に開催された。コロナ禍の中、多くの学校で「学びを止めない」が合言葉として掲げられてきた。しかし、学びを止めてはならないのは、児童・生徒だけではない。このような時期だからこそ、教員もまた学びを止めてはならないのではないか。そのような問題意識で設定されたものだ。

話題提供者は、帝京大学教職大学院専任講師の町支大祐(ちょうし・だいすけ)先生と、広島城北中・高等学校教諭の飯盛聡士(いいもり・さとし)先生。参加者も含めて、今回も熱い議論が交わされた。以下、当日の様子をレポートしたい。

プログラム  ※所属・役職は開催当時のもの

  • 話題提供1 そもそも何故『教員の学び合い』か  帝京大学教職大学院専任講師 町支大祐先生
    • ◆ 参加者同士の対話 1 「アクティブラーニングに取り組む学校でも学び合いが停滞」
  • 話題提供2 コロナ禍における『教員の学び合い』-広島城北中・高等学校の事例-  広島城北中・高等学校教諭 飯盛聡士先生
    • ◆ 参加者同士の対話 2 「過度な平等主義がネックとなった事例も」
  • 話題提供3 今後の『教員の学び合い』に向けて  帝京大学教職大学院専任講師 町支大祐先生
    • ◆ 参加者同士の対話 3 「自分にとってのキーワード」
  • 振り返りとまとめ

話題提供1 そもそも何故『教員の学び合い』か 帝京大学教職大学院専任講師 町支大祐 先生

実践で「背伸び」と「振り返り」  協働で学びの質を向上

帝京大学教職大学院専任講師 町支大祐 先生
帝京大学教職大学院専任講師 町支大祐 先生

まず、町支先生からの話題提供。
前提として、教員は教えることの専門家であり、教える内容の更新にともなって、教員が学び続けることは必須である。しかし、今回のテーマはこれとは別の意味で、学びが必須であるということを考えたい。短期的にはコロナ対応で教員の学びは必須だし、中長期では新学習指導要領や生徒の「主体的・対話的で深い学び」をどう受け止め実現するかについても、教員の学びは不可欠だ。生徒たちが卒業して出ていく社会の在り方が変わり、それに応じて育成すべき資質・能力も変化していく。当然、授業も変化しなければならず、そのために教員も学ぶ必要があるということだ。

教員の学びには、1.理論的な学びと、2.実践的な学びの2つのモードがあるが、鍵になるのは2.実践的な学びである。学びの源泉は7割が経験と言われており、つまり、それが実践的な学びだからである。そこでのキーワードは「背伸び」と「振り返り」。人は背伸びをして実践し、それを振り返ることで「持論」を得て、暗黙知を獲得する。このサイクルを繰り返すことが重要で、これは米国の組織行動学者ディビット・コルブの「経験学習サイクル」として理論的にも示されている。このサイクルを回している人ほど、能力感が高いということが研究でも分かっており、教員も学びながら持続的に変化していくことが大切だという。

教員の実践的な学び=キーワードは「背伸び」と「振り返り」

そして、なぜ「学び合い」が重要なのか。
それは「背伸び」と「振り返り」のサイクルに他者が加わることで「学びの質」が向上するからである。「背伸び」の面から見ると、背伸びするには勇気が必要だが、その背伸びを他者に後押ししてもらうことができるし、アイデアも得やすくなる。「振り返り」の面から見ると、他者の目を介することで、自分には見えない気づきを得ることができる。

また、一斉授業では生徒の「学び」を見とりやすかったが、アクティブラーニングや主体的・対話的で深い学びの場合は不確実性が大きく、他者(生徒)との関わりによって生徒の考え方が変わっていくことが多い。そのため、より解像度の高い「学び」の見とりが必要であり、これまで以上に他者(教員)の目が必要となる。

そして、もう1つ重要なことは、自分の授業が変わるだけで、生徒の資質・能力が本当に伸ばせるのかという問題である。生徒は、いろいろな先生の授業を受ける。他の先生も変わっていかないと、生徒に大きな影響を与えることはできない。そのためには他の先生を巻き込むムーブメントが必要である。

従前より、日本の教員の学び合いはLesson Studyとして世界中から賞賛されていた面もある。しかし一方で、近年は形骸化していたり、変わることへの反発もあったりする。それらを克服していく必要があるのではないかと町支先生は指摘する。

-参加者同士の対話 1 「アクティブラーニングに取り組む学校でも学び合いが停滞」-

この話題提供を受けた対話では、参加者が4人程度のグループに分かれ、自分の学校では教員同士の学び合いの状況がどのような状況かを、「快晴」「晴」「曇り」「雨」「大雨」から選び、その理由を話し合った。あるグループでは、以下のような対話が行われていた。

  • 「晴」

    県の教育センターに勤めているが、研修を起ち上げていて徐々に県内に取り組みが広がっている。

  • 「曇り」か「雨」

    コロナ禍もあって取り組みが進むと期待していたが、なかなか動かないし、休校が終わったら取り組みがしぼんでしまった。

  • 「雨」か「大雨」か「雷雨」

    困難校の立て直しが課題だが教員同士の対話が成立しにくい状況だ。

  • 現在は「雨」

    5年ほど前に、新しい取り組みとしてアクティブラーニングを始めたときは学び合いが活発だったが、慣れてきてしまって次のモチベーションをつくれていない。最初の頃は公開授業研究会に向けて教員も学び合っていたが、4年目からは通常の校務に組み込まれるようになり、発信する場がなくなるとともに学び合いも低調になった。

話題提供2 コロナ禍における『教員の学び合い』-広島城北中・高等学校の事例- 広島城北中・高等学校教諭 飯盛聡士先生

できる人から小さく始め、次第に拡大 教科ではなく学年を基軸に

広島城北中・高等学校教諭 飯盛聡士先生

次に、具体的事例から考えるため、広島城北中・高等学校の飯盛先生の話題提供があった。同校は生徒数約1,300名で教職員は100名強。イベント時点では対面授業に戻っているが、5月には900コマ中の3分の2、約600コマをオンライン授業にすることができたという。

  • <第1期>臨時休業要請~春休みまで

    休業要請が出た2月27日夜に「何ができるか」をICT担当教員と一緒に考えた。ICTに長けている先生が3月2日からとりあえずスモールスケールでやってみようと始めたのである。管理職には後から承諾を得ることにして、Zoomアプリを全パソコンにインストールした。また、毎日授業を録画してオンデマンド配信するのは無理なので、ライブ配信で行くことに決めた。同時に長期戦のための情報収集を行い、Zoomの運用には予算措置が必要であることも管理職に知らせておいた。

  • <第2期>1学期開始からGWまで

    オンラインで生徒と課題をやりとりすることから開始した。出来る先生はZoomで授業を始めていった。生徒側にどう見えているか等を振り返りシートと毎朝のオンラインホームルームで調査して検証も行った。また、学校全体で、午前中4時間は授業、午後は課題に取り組んで提出するという時間割を、教務部を中心に決めた。そして教員も在宅勤務でMicrosoft Teamsを使えるようにした。

  • <第3期>GW明けから5月末まで

    このまま休校では高校3年の授業内容が終わらない計算になるので、学校全体でZoomによる授業を実施することが決まり、最終的に900コマ中600コマぐらいまで増やすことができた。

全期間を通して振り返ると、最初は手探り状態で始まり、PDCAを回すことも時間的に無理だと考えた。また、誰もオンライン授業について未経験で、一家言を持っている人がいないからこそ対話が生まれた。誰もが進めながら考えるしかなかった。その結果、教員間に教科や学年、経歴等の垣根を越えて「支える人を支える」という関係が形成された。

効果的だったのは複数の授業を1つにまとめたこと。例えば、ある教科では、対面授業の場合、1学年を2人の教員で教えていたが、オンラインにしてからは1人で教えて、もう1人は裏側でチャットの応答や生徒の様子をチェックするなどの分担ができるようになり、チームティーチングが自然に発生した。

もう一つのポイントは、教科ではなく学年からアプローチしたことである。教科で考えると、やり方などで一家言ある先生も多いが、学年で考えると、どの先生も目の前の生徒を見ているので、「この子たちを何とかしなければ」という想いが共有できた。

-参加者同士の対話 2 「過度な平等主義がネックとなった事例も」-

2回目の対話も1回目と同じメンバーで、広島城北中・高等学校の事例についての感想が話された。その一部を紹介する。

  • 教科ではなくて、学年でというのが成功した理由に思えた。本校は教科でやろうとしたが、過度な平等主義の問題が出てきた。
  • 自分の場合は自宅から授業で、教材づくりも個人でやったため、個人の負担が大きかった。学校でやれば協働できたはずだが、そうはいかなかった。
  • 自分のところもコロナだからこそ教員が協働せざるを得なかった。オンラインでもベテランがついて来ないということはなく、対話と協働が生まれた。
  • こんなにうまくいった事例に驚いた。自分のところは、何人かの教員が生徒とメールでやりとりしようとしても、それすら許可されなかった。紙ベースで課題をやりとりするだけで終わった。

話題提供3 今後の『教員の学び合い』に向けて 帝京大学教職大学院専任講師 町支大祐 先生

学び合いの工夫やアイデア ときには青臭い対話も

帝京大学教職大学院専任講師 町支大祐 先生

次に、今後の「教員の学び合い」に向けて、今できること、やるべきことは何かについて、町支先生より話題提供が行われた。

まず、コロナ禍の半年を振り返ると、次の背伸びに活かせることはたくさんあるという。また、学校の状況によってやるべきことは異なるため、この機会を前向きに活かしていくためには、工夫やアイデアも必要だとして、そのための多様な話題や活動事例が町支先生から提案された。

例えば、

  • そもそも学校に学び合える関係性がないという場合、最初はコミュニケーションの絶対量が重要になる。「なぜ教員になったか」「5年後のこの学校はどうなっていてほしいか」などの青臭い対話は、互いを理解し、関係性をつくっていくためにも大切。
  • 実践的な活動としては、教室巡りツアーや、うまくいった実践等のポジティブ(喜びの)エピソードを共有してみる。
  • 授業について語る機運を高めるために、長い視野で授業をグループで振り返ってみる。
  • 成長や学習につなげるにはマインドセットが大事で、「こちこち」よりも「しなやか」の方が学べる。
  • 現在の授業研究では、授業づくりは個人で、振り返りだけは全体で行っている。それを、授業づくりから全体で行ってみる。
  • 校内研修の場はお互いを支え合う場であることを確認しながら進めることが大事。

そして、本日の話題提供や対話の中で出てきた言葉のうち、自分にとってのキーワードを考え、参加者同士の対話で共有した後、2名の参加者から全体に向けて発表があった。「青臭い話を、教室巡りなどモノを介して話してみる」などこれから取り組みたいこと、「しなやかなマインドセット」「シリアスファン」などのキーワード、「改めて教員の学びとは何かを考える場があるとおもしろい」といったチャットに寄せられた感想など、さまざまな気づきを全体で共有した。

最後に、町支先生は、「学ぶことは変わること。目の前の生徒たちや同僚から自分の気づきを得て自分が変わり、授業が変わっていくのは、これからの方向性を自らの手で決めて動いていくこと」、飯盛先生は、「『今しかできないことを、ここでしかできないことを』という問いから自分や組織をメタ認知してみる。学校の中で一番勉強していないのは教員だと思う。そうならないよう輪を広げていきたい」と締めくくった。


※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。

  • 私と河合塾
  • [連載]「河合塾にフォーカス