2019年度 第1回 対話のひろば イベント実施レポートAL型授業に参加が難しい生徒・学生について語り合おう
2019年5月11日 実施
2019年5月11日(土)、対話のひろばの第1回イベントが開催された。
「対話のひろば」は、様々なバックグラウンドをもつ参加者が、大学・高校・企業などといった垣根を越えて、各回のテーマについてとことん語り合う企画である。第1回は、過去のイベント参加者から関心の高かったテーマを取り扱うことにした。
今回のテーマは、「対話のひろば」に限らず、河合塾教育研究開発部が主催する様々なイベントのアンケートで、毎回のように「取り上げてほしいテーマ」として挙げられていた。そのため、参加を希望してくださる方はきっとたくさんいるはず、と想定はしていたが、いざ受付を開始すると、過去最高の勢いであっという間に申し込みが定員に達し、締め切りとなった。ご案内のwebページへのアクセスも過去最高であり、改めて今回のテーマへの関心の高さを目の当たりにした。
当日は、4~5人のグループが5つ、約20名の出席者でスタートした。
プログラム ※所属・役職は開催当時のもの
- アイスブレイク
- グループでの対話:クロスロード・ゲームを通して発達障害のある生徒・学生への対応を語り合う
- レクチャー(一橋大学講師 筑波大学心理発達教育相談室相談員 湯浅俊夫先生)
- 質疑応答
- グループでの対話:現場での課題や解決策について語り合う
- ふり返り
アイスブレイク
アイスブレイクでは、自己紹介を行った。出身地や好きなもの、長所、参加動機などを語り、それをグループメンバーがほめる、という形式で進んだ。参加者は、自分の情報をただ発信するだけではなく、初対面の相手からほめられるという経験をし、皆一様に照れくさいようなくすぐったいような顔をしていたのが印象的だった。その自己紹介のなかで、湯浅氏から、カウンセラーとしての技法の解説と実践指示も出され、安心・安全な場が築かれて、一気に場が和やかな雰囲気に変化した。
グループでの対話:クロスロード・ゲームを通して発達障害のある生徒・学生への対応を語り合う
AL型授業に参加が難しい生徒・学生をグループワークにいれるべきか?
グループでの対話では、最初に、「あなたは、アクティブラーニング型の授業への生徒・学生の参加について、次のA、Bどちらの立場に近いですか」という問いが提示された。
- A:
「社会には発達障害を含め多様な人がいるのだから、(発達障害の人を)グループワークに入れるべき」という立場 - B:
「無理にグループワークに参加させて辛い思いをさせるくらいなら、(発達障害の人が)グループに入らなくてもよい授業にすべきだ」という立場
レクチャー 一橋大学講師 筑波大学心理発達教育相談室相談員 湯浅俊夫先生
イベント開始時点では、およそ3:1の割合でAの立場を示す参加者が多かった。イベントでの対話を通じて、立場が変わった人もいた。
対話は、防災シミュレーションゲーム「クロスロード」を応用する形で行った。「クロスロード」とは、災害時に実際に問題となった災害対応のジレンマからその対応を考えるカードゲーム形式の教材のことであり、阪神・淡路大震災で、災害対応にあたった神戸市職員へのインタビューをもとに作成され、「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」(文部科学省)の一環として開発された。
湯浅氏がこの手法にヒントを得て、豊富な相談員経験をもとに以下のようなケースを示した。
- 事例1:
こだわりの強い小6の男児。彼をグループワークに組み入れるべきかどうか。 - 事例2:
他の子と感覚がずれてしまう中2の女子。国語の時間、ひとり読書を許可するかどうか。 - 事例3:
コミュニケーションが苦手で言葉の裏にある意味合いを理解しづらい大学2年生の男性。就職に不安を抱える彼の自尊感情を損なうことを避けるため、授業でのグループワークから外すべきかどうか。
そして、参加者はそれぞれのケースへの対応について、グループ替えをはさみながら、議論を深めていった。
グループでの対話:現場での課題や解決策について語り合う
「社会性」とは何か
グループでの対話とその全体共有のなかでとくに印象的だったのが、発達障害の生徒・学生をグループワークに加えるべきかどうかの議論の中でされた、参加者からの社会性に関する問題提起である。
- 「今、議論になっているのは、発達障害をもつ生徒本人の『社会性』についてですが、そうではない大多数の集団側『社会性』の育成もあるのではないでしょうか」
- 「いわゆる、“社会性を身につけやすい”ほうの生徒にも、社会には多様な人がいることを知り協調する姿勢が必要ですし、“社会性を身につけやすい”生徒の『社会性』をより一層伸ばすことで、多様な人が生きやすい環境を作ることにつながりませんか」
また、別の参加者からは、「生徒の成長を『点』ではなくて、『線』で見るべきではないでしょうか。ある時点でできなかったことが、この時点ではできるようになった、という長期的な視点での評価が必要になってくるのだと感じます」などという声もあった。
このように、多様な視点での対話が生まれ、議論はさらに発展していった。
今、何をすべきか
では、アクティブラーニング型授業に参加が難しい生徒・学生を目の当たりにした際に、私たちはどう対処すればよいのだろうか。
発達障害と一言でいっても、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などがあり、これらを明確に分けて診断することは難しい。障害の特徴に加えて個別の特性や発達の差もあるため、画一的な対応はなく、その生徒・学生に応じた対応を考えていく必要があると湯浅氏はいう。言葉にするのは簡単だが、実際にはなかなか難しい。
本人の意思や特性に配慮して、グループワークに参加させないことも時には必要であろう。しかしながら、生徒・学生がいずれ身を置く変化の激しい社会を見据えると、彼らが少しでも自立に向けて成長できるよう、悩みながら進めていくしかないのだろう。
※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。