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未来のマナビフェス2019 実施報告vol.8生徒や学生の成長を支えるリーダーシップ

登壇者:三浦隆志(元 岡山県立林野高等学校)、日向野幹也(早稲田大学)
菱山諒(株式会社イノベスト)、曽我部梨羅(株式会社イノベスト)

天性のカリスマを発揮して集団を引っ張っていく先導者。こうした従来のリーダーシップ観は近年「旧型のリーダーシップ」として認識されつつある。本セッションでは、新しいリーダーシップ観の紹介とともに、若者がリーダーシップを通してどのように成長していくのか、その可能性について考える機会が提供された。

管理職が直面する「リーダーシップとはなんぞや」という問い

三浦隆志(みうら・たかし)
三浦隆志 氏(元 岡山県立林野高等学校)

セッションは、県立高校の校長を務めた経験もある三浦隆志氏の言葉から始まった。

「”学校を変えようとする教員は厄介者なのか。” 先日こんな見出しを見つけました。働き方改革が進められる中、リーダーシップを発揮しようとすることに不安を感じることもあります」。リーダーシップについて悩む学校の管理職の思いを三浦氏はそう代弁する。「いろんな本を読み漁って見つけたのが日向野先生の『高校生からのリーダーシップ入門』でした。今日は日向野先生のレクチャーを通して、リーダーシップについてみんなで考えたい」

2006年に立教大学でプロジェクトを立ち上げて以来、日本のリーダーシップ教育の普及に大きな貢献をしてきた日向野幹也氏。三浦氏からのマイクパスを受け、自己紹介を交えながらアクティブラーニングとリーダーシップ教育の関係についてこう語る。

「リーダーシップ教育は、アクティブラーニングの先進的事例として高い評価を受けました。それがリーダーシップ教育が注目されるきっかけにもなった。でも、アクティブラーニングは単なる学習方法であり、リーダーシップは学習目標。アクティブラーニングは内向的な学生にとっては苦手がられることもあるのに対して、リーダーシップはこういった学生にも必要性が理解されやすい。したがって、リーダーシップを学ぶことは、アクティブラーニングの導入にもなる。また、リーダーシップは学生の生涯学習の糧となる、一生使えるライフスキルでもあるのです」

ここで言うリーダーシップとは、冒頭部で述べたカリスマ性に由来する旧型のリーダーシップとは異なる概念だ。日向野氏はリーダーシップについてこう説明する。

「“複数の人物で成果を出すために、1人、または何人かが影響力を使うこと、またはその影響力”というのが最も広いリーダーシップの定義です。新旧のリーダーシップの定義は、この「影響力」の発生原因によって異なります」

古いリーダーシップの考え方では、「影響力」の源泉は命令や指示を出せる権限やカリスマ性にある。また、優れた人物だけがリーダーシップを取れば良い、という考え方だ。この場合、リーダーシップとは命令の出し方のことを指す。対して新しいリーダーシップの考え方では、「影響力」の発生原因を権限・役職・カリスマ性に限定しない。ある人の行動・態度と、それを他の人がどう受け取って行動するかを重要視するのである。この場合、リーダーシップは複数人が発揮することも可能であり、練習・訓練によって養成・開発できる。

日本の高校におけるリーダーシップ教育への期待 -行事を利用して学校生活の中へ-

日向野幹也(ひがの・みきなり)
日向野幹也 先生(早稲田大学)

新しいリーダーシップは、80年代にグローバル企業で必要性が見いだされ、アメリカでは90年代から教育現場での普及が始まった。大学におけるリーダーシップ教育に関して言えば、アメリカはすでに普及し尽くされた状態。リーダーシップ教育の次は何が必要か、という議論すら行われている。日本の大学では2016年から急速に拡大し始めたばかりなので、アメリカと比べると20年ほど遅れをとっている。

しかし、高校に関しての状況は異なる。アメリカの高校では体系だったリーダーシップ教育は行われていない。加えて、スポーツや生徒会などの影響で、古いリーダーシップ観が残っている。対して日本は、リーダーシップに先行してアクティブラーニング運動が進行中の状態。これはリーダーシップ教育普及の絶好のチャンスであると言える。

具体的に、一人ひとりが発揮する新しいリーダーシップとはどういったものなのだろうか。

日向野氏は

  • 目標共有(sharing the goal)
  • 率先垂範(setting the example)
  • 相互支援(enabling others)

をリーダーシップの最小3行動とし、ゴミだらけの海を綺麗だった昔の姿に戻す過程を例にこう説明する。

「まず綺麗だった昔のビーチのイメージを共有します。『この綺麗なビーチを取り戻したい』という目標を設定し、それを周りの人に話して賛同を募ります。これが目標共有です。言い出した人に命令する権限があるというわけではないので、命令はせずに自分でゴミを拾い始めます。それも、他の人が見ているところで拾います。これが率先垂範です。やがて、それを見て後から続いてくれる人が出てきたり、こうしたら良いのではないかとアドバイスをくれる人が出てきたりするでしょう。それは相互支援となります」

高校生や大学生がこの3行動を実践すると「目標を共有できる間柄であれば一緒に行動できる」ということに気がつき、対人関係全般が前向きになっていく。共通のゴール達成のためであれば、序列(スクールカースト)を度外視した行動が許容される、ということを経験するのだ。

リーダーシップ開発の基本形 -3段階ステップをライフスキルに-

では教育現場ではリーダーシップをどのように取り扱ったら良いのだろう。日向野氏はDavid Kolbの経験学習理論を参照しながら次のように語る。

「(1)リーダーシップ強化目標の設定、(2)リーダーシップの発揮、(3)振り返り、という3段階がリーダーシップ開発の基本形になります。まず、どのようなリーダーシップを向上させたいか、目標を設定しておく。次にリーダーシップを発揮しなければ成果が出せない状況に身を置かせる。発揮した後にフィードバックをもらう機会を設定し、フィードバックを生かして次の改善計画を作る振り返りの場を持つ。そこから目標設定という最初のステップに戻ります」

3段階のステップはどれも欠かすことのできない意味を持つ。日向野氏は「講義や講演を聞く機会があるものの、リーダーシップを発揮する機会が用意されていない企業の『次世代リーダーシップ育成』事業や、海外留学などのリーダーシップ発揮の機会はあるものの、振り返りの機会がない『リーダー育成プログラム』、経験は用意するが学習目標設定が明確でない『ビジネスコンテスト』など、3段階が揃っていないリーダーシップ教育も多い」と指摘する。体育祭や合唱コンクールなど、優勝という分かりやすい目標が設定しやすい高校では、行事の前後にこの3段階の機会を設定することによってリーダーシップ教育を組み込むことができる。

初めは教員に促されてこのサイクルを回すことになりますが、授業後はこれを自分で意識して回すようになります。つまり、学生はリーダーシップ開発のサイクルを回す力をつけることによって生涯学習者になるのです」と、日向野氏はリーダーシップ教育の際限無い可能性を提示する。

次へと続くリーダーシップ教育 -次回へ向けた参加者への宿題-

曽我部梨羅(そがべ・りさ)
曽我部梨羅 氏(株式会社イノベスト)

会場には、日向野氏の教え子であり現在は株式会社イノベストにてリーダーシップ教育を教育現場で実践している曽我部梨羅氏や、日向野氏のゼミ生からも、経験談に基づくリーダーシップ教育の重要性が強調された。

活気溢れる次世代からのプレゼンテーションを経て、マイクは三浦氏へと戻される。

「実は、次回もこのテーマでセッションを企画しています。今日ご参加していただいた皆様、そして今日のセッションの情報をご覧いただいた皆様に、ぜひリーダーシップ教育を実践していただけたらなと思っています。そしてこのようなセッションで、失敗事例を含め、さまざまな取組事例について共有できたら良いなと考えています。次回は、ぜひ参加型でやりましょう!」


※本文中の所属・役職などは開催当時のもの

※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。

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