このページの本文へ移動 | メニューへ移動

作問のひろば 実施レポート対話を通して、思考力・判断力・表現力を測る問題をつくろう!-地理編-

2019年9月8日 実施

「思考力・判断力・表現力の育成」は、教育イノベーターである読者の皆さんにとっては聞き飽きた言葉かもしれない。しかし、議論の中心は授業でどのように育成するかで、どんな問題であればそれらの能力が測れるかまでは至っていないように思う。そこで、「作問のひろば」では、「思考力・判断力・表現力」を問うとはどういうことか、どのような問題が考えられるか、対話を通して問題を一緒に作り上げるワークショップを企画した。

まず、「地理」という科目に着目した。「地理」は図表の読み取りや現象の因果関係の考察等を扱う科目であり、現在の大学入試改革が進行する以前から思考力・判断力・表現力を問われてきた科目だからである。

話題提供には、河合塾の地理科講師として授業やテキスト執筆の傍ら、長年模擬試験の作問や学習指導要領の研究に携わり、日本地理学会地理教育専門委員会の委員も務める佐藤裕治先生を招き、作問ワークショップを実施した。1つの科目に限定して実施するのは「作問のひろば」では初めての試みであり、それも作問のワークショップ。運営事務局としても、どの程度ニーズがあるものなのか不安なスタートであったが、地理学会や地理に関わる先生方のネットワークなどによって輪が広がり、40名の定員も締め切り前に充足した。

プログラム

  • レクチャー 「思考力・判断力・表現力を問う作問ワーク」河合塾地理科講師 佐藤裕治
  • 質疑応答
  • 課題の提示・グループでの作問体験
  • グループ発表
  • ふり返り

レクチャー「思考力・判断力・表現力を問う作問ワーク」河合塾地理科講師 佐藤裕治

レクチャーでは、大学入学共通テストの平成30年度試行調査の問題の解説や過去の大学入試から思考力・判断力・表現力を問う問題の例が複数挙げられた。ここで佐藤先生から語られたのは、複数の資料から構成された“良い”問題が、入試においては必ずしも識別力のある問題(学力の高い生徒群と低い生徒群で正答率に差が出るような問題)にはならないという点である(もちろん、入試においては全ての問題が高い識別力を持つ必要もなく、様々な問題を組み合わせて全体として入学者の選抜ができればよいということも補足されていた)。その上で、共通テストの試行調査の中で“良い”問題だが識別力が低いという、“惜しい”問題を取り上げ、佐藤先生が識別力を高める改善案を提示する場面もあった。

河合塾地理科講師 佐藤裕治

河合塾地理科講師 佐藤裕治先生

課題の提示・グループでの作問体験

こういったレクチャーを踏まえて、実際にグループで作問に取り組んでもらう課題が提示された。課題は、各グループに配付された資料を用いて、作問フレームに沿う問題を作成することである。

問題作成のテーマとフレーム

  • 表中のA~Cは出題分野を指す。分野ごとに統計・ハザードマップ・地図などの様々な資料が12~15種類ずつ準備され、各グループはくじ引きによって、A~Cのいずれを担当するかが決定された。

その際に、次の3つの観点が盛り込まれるようにとのことだった。

  1. 思考力・判断力・表現力を測ることができるか
  2. 学力の識別力があるか
  3. 問題の独自性があるか

作問体験開始時は、個人で資料を読みながら、その意味を周囲の人と小声で確認することにとどまっていた。地理の専門家が集まっているとはいえ、初対面の人たちとグループで作問を行うことに戸惑いや遠慮があったのか、なかなか発表用の模造紙への記入は進まなかった。しかし、残り時間が少なくなるにつれて議論が活発になり、最後にはどのグループも発表する形にまで仕上げるなど、参加者のレベルの高さを実感した。

なかなか進まない議論

なかなか進まない議論

徐々に活発になり・・・

徐々に活発になり・・・

手渡された資料だけでなく、PCなどで別の資料も探し始めるグループも。

手渡された資料だけでなく、PCなどで別の資料も探し始めるグループも。

最後は皆さん立ち上がり、模造紙を確認しながらワイワイ進めていました。

最後は皆さん立ち上がり、模造紙を確認しながらワイワイ進めていました。

グループ発表

発表は出題分野ごとに全グループが行った。各グループが独自性を出した問題作りに取り組んでおり、資料の組み合わせ方、問いの立て方、何を問いたいかの視点など、同じ素材を用いながらも多種多様な問題案が提示された。佐藤先生からは、「いずれも持続可能な地域づくりなど、地理においてこれから求められることを意識して作られていた。今回は、限られた時間の中で問題作成を行ったが、ここから先どのようなアプローチで最終的に問題として仕上げていくか、楽しみである。」など講評として述べられた。

実施後のアンケートでは、参加者から「毎回の定期テストで作問に悩んでいましたが、いろいろな切り口を意見交換の中で知ることができてよかった」「他校の先生との『問題づくり』は新鮮だった」「何を生徒に問うのか、その狙いをしっかりしたものにしないと生徒に求めるべき力をはかる問いがたてられないことが再認識できた」といったコメントをいただいた。

イベントを終えて

特に印象的だったのは、参加者が実に楽しみながら作問している姿であった。地理の専門家たちが地理について熱く語る姿からは、当然だが地理という科目が大好きであることが伝わってきた。

今まで開催してきた作問のひろばも、高校・大学・社会の枠を越えて議論することを特徴としてきた。しかし、今回は特に、高校・大学・予備校・教科書会社・省庁や行政に所属する人びとが一堂に会して、大学入試における作問という切り口ではあるが地理という1つの科目について真剣に考え議論ができたことに、いつもともまた異なる意義も感じられた。

各グループの発表に対して講評をする佐藤先生。レベルの高い発表に、講評も熱がこもっていました。

各グループの発表に対して講評をする佐藤先生。レベルの高い発表に、講評も熱がこもっていました。


※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。

  • 私と河合塾
  • [連載]「河合塾にフォーカス