2020年度 第2回 対話のひろば 実施レポート「ブレンディッド授業だからできることとその持続的発展-学びを止めるな!」
2020年8月9日 実施
本年5月31日に開催された対話のひろば第2回「学びを止めるな!-コロナを越えて、学びと働き方を考える-」では、臨時休校から段階的に学校が再開されるタイミングで、以前の対面型授業の形態にそのまま戻るのではなく、この間の試みで培ったオンライン授業の要素を日常の授業にも取り入れた、いわゆるブレンディッド授業に向かうという方向性が提起された。
一時的な緊急対応ではなく、この取り組みを持続し、さらに発展させるためには、そのような授業の型を、どのような目的で、どのような内容で行い、実際に生徒がそこで何を学んだのかという見とり(学習評価)が問題となる。
そこで、第2回の「対話のひろば」は、高等学校での授業に焦点を絞り、「ブレンディッド授業だからできることとその持続的発展」をテーマとして、埼玉県立大宮高等学校の畑文子先生が学校再開時の授業実践を報告、国立教育政策研究所の白水始先生が畑先生の実践を理論的にフォローしながら、全体のファシリテートを行った。以下、当日の様子をレポートしたい。
プログラム ※所属・役職は開催当時のもの
- イントロダクション
- 話題提供1 授業実践報告
森鷗外『舞姫』(高校3年現代文)を例に 埼玉県立大宮高等学校 畑文子先生- ◆ 参加者同士の対話 1-ブレイクアウトセッション-
- クロストーク
- 話題提供2 ブレンディッド授業をどう作るか?どうやって持続的によくしていくか? 国立教育政策研究所 白水始先生
- ◆ 参加者同士の対話 2-ブレイクアウトセッション-
- 全体共有・まとめ
イントロダクション
授業デザインのポイントは、2つの学びの側面をどのように組み合わせるか
「『学びを止めるな』という言葉を聞いて、どのような印象を受けましたか?」
まずは、白水先生から畑先生への問いからスタートした。登壇者が一方的に報告し、参加者だけが対話するのではなく、登壇者同士も対話しながら進めていくというわけだ。
白水先生は、「子どもたちの学びは、そんなに簡単には止まらない。時間があれば、興味・関心にしたがって、系統的に深く、自分なりに学んでいく」ということを前提として、学校の役割を以下のように提示した。
「学校は、たくさんの子どもたちの学びの力を集めて、一緒に問題を解いてみようと、対話を引き起こす。高校を卒業するまでに触れておくべき問題を一緒に解くことで、見方・考え方を手に入れ、文化の本質を指し示すのが役割なのではないか」
さらに本日のテーマである「ブレンディッド授業」については、東京大学大学院情報学環 池尻良平先生の資料(講演:反転授業とブレンド型学習 )を引用しながら、「授業形態やICTを取り入れて何をするか」より、「どのような学びを混ぜるか」に主眼を置いて考えていくとよいという。そして、その授業デザインのポイントは、同じ問題に対して、「自分自身の体験から学ぶ(Task-doing)」と「他人から学ぶ(Monitoring)」という2つの学びの側面をどのように組み合わせるか、どのようにデザインするかに尽きると指摘する。
そのうえで、畑先生から、学校再開後に取り組んだ現代文の森鷗外『舞姫』の授業実践が報告された。
話題提供1 授業実践報告
森鷗外『舞姫』(高校3年現代文)を例に 埼玉県立大宮高等学校 畑文子先生
埼玉県立大宮高等学校 畑文子先生
この授業は、理数科の3年生を対象に、分散登校という制限の中で、通常は、14コマほどを使うところを、65分×4コマで完成させるというものである。しかも、「密」を避けて1クラスを2教室に分けて、教員は1人で教室間を行き来して授業を行ったという。
授業の目標は、「作品自体の持っているテーマを超えて、物語としての『舞姫』の価値にまで到達すること」で、工夫した点は大きく次の2点である。
- オンラインでの反転授業
- 対面授業は教員が30分ごとに移動し、A・Bの2つの活動を各教室で交互に実施
前者は、動画を視聴し、4コマ8つの事前課題に解答するというもの。後者は、Aは事前課題の三択式問題で同じ解答をした生徒のグループを作り、その解答の根拠を20分程度話し合った後、グループの代表がプレゼンするという活動。Bは記述式問題の添削で、傍線部前後の読解内容を説明した後、記述式問題の解答を生徒間で協議・相互評価するというものである。教員は1人であるため、Aの活動の進行は生徒に任せることになった。
いずれも、授業後に、事前課題と同じ問題に再度取り組む。Bの活動では、事前課題で1つの選択肢に解答が偏っていたものが、同じ選択肢を選んでいてもその根拠はさまざまで、また、他の選択肢を選んだグループは全く違う読み方をしていることに気づき、授業後には解答を変える生徒もいたそうだ。
参加者同士の対話 1 -ブレイクアウトセッション-
授業実践報告を受けてのブレイクアウトセッションでは、参加者が4人ほどのグループに分かれ、畑先生の実践に対する質問を出し合い、グループで2つの質問に絞っていった。
あるグループでは、教員・生徒が使う端末、授業準備にかかる負担、生徒のレベル、生徒へ指示の出し方、他教科での取り組みなど、さまざまな疑問・質問が交わされ、最終的に「準備にどれくらいの時間をかけたか?」「他教科はどのように授業していたか?」の2つに絞られた。
クロストーク
再び、全員がメインセッションに戻ってのクロストークでは、ブレイクアウトセッションで出た質問を、グループ代表者がチャットに書き込み、それをもとに白水先生が畑先生に質問するという形式で進められた。
評価やテスト、効果の検証、密を避ける工夫など、さまざまな質問に対してのクロストークが繰り広げられた。「今回の授業実践は、全てオンラインで実施することが可能では?」という質問に対して、「オンラインでは、リアルとはまた違う圧がかかる。すべてをファシリテートすることは、まだ自分には難しい」と畑先生。白水先生は、その難しさの1つとして「リアルに比べると、オンラインでは明瞭に言語化された説明が求められるので、生徒がわかりかけていることを言葉にして、わちゃわちゃと話し合いながら、考えを組み合わせていくところに困難がある」と背景を示すなどした。
話題提供2 ブレンディッド授業をどう作るか?どうやって持続的によくしていくか?
国立教育政策研究所 白水始先生
国語の授業を超えて
話題提供2では、ご参加の先生方の授業改善に活かしていただくために、畑先生の授業実践を超えて、ご参加の先生方からの質問を大きく以下の2点に整理するところから始まった。
- 知識の定着と活用をどう組み合わせるか
- 対面とオンライン(オンデマンド)をどう組み合わせるか
特に、後者については、教員が生徒の学習状況を直接管理しない学習形態では、「生徒がサボったら、サボる生徒が悪い」ではなく、「授業の中に生徒が学びに向かう姿勢・態度を示したくなる状況があるか」という点が授業者側に求められると指摘した。
そこで、高校2年数学を例に、「基礎演習」として知識の定着を単にドリルで理解するのではなく、活用(統合)を前提にした、知識構成型ジグソー法をアレンジしたブレンディッド授業のデザインが、白水先生から提案された。
そして、こういった授業形態を持続的に改善・発展させていく授業研究の鍵は、以下の2つであると白水先生は解説した。
- 子どもにどんな学びが起きそうかという仮説
- どんな学びが起きたかという学習評価(見とり)
つまり、「その授業で生徒がどうなってほしいのか」と「実際に、どうなったのか」を繰り返し検証し、改善を重ねていくということである。さらに、それを教員1人ではなく、いろいろな教員と意見を交わしあいながら検討を重ねていくというのだ。
ここで気づくのは、この授業研究のサイクルが、生徒の学びの「自分自身の体験から学ぶ」と「他人から学ぶ」と同じ構造になっているということだ。授業研究は、教員にとっての学びなのである。
また、白水先生の実感としては、この情勢のなかで、子どもたちの学びをしっかり保障できている、つまり「学びを止めるな」を実現できている学校・自治体は、ICTへの慣れや知識の豊富さよりも、しっかりした教育のゴールと学びのモデルがある学校・自治体であるということだ。
参加者同士の対話 2 -ブレイクアウトセッション-
2回目のブレイクアウトセッションでは、今日の話を踏まえて、参加者自身がやりたいことは何か、そのためにICTがどう使えそうかについて意見を交換し、そのうえでの登壇者への質問が議論された。
この半年ほどの経験によって、学びや学校が新たな時代を迎えているという認識の上で、さまざまな工夫やアイデアについて発言が続いた。一方で、各教員が反転的な事前学習を促進すると生徒の過度な負担につながることが懸念されるため、教科間連携の必要性などが議論された。
全体共有・まとめ
オンラインだからできることと...
最後のセッションでは、ブレイクアウトセッションでの質問を再び参加者がチャットに書き込み、それに両先生がコメントをしながら、全体のまとめが行われた。
生徒の議論の質を上げるためのフィードバックの方法については、その場で介入する方法もあるが、一方で、不活性なグループについては、課題の出し方が適切であったかを検証し、教員からのアプローチを変えることによって、1回の授業ではなく長いスパンで質を上げていくような取り組みが、リアルでもオンラインでも必要だと、白水先生は指摘する。
また、「ICTツールを使った個別最適化、アダプティブ・ラーニングの流れと、みんなで考える・議論するような授業との折り合いは?」という問題に対して、畑先生が「狙いが違うところにある。1つの解答に収束するような議論ではなく、差異のなかから気づきを得たり、さまざまな答えにたどりついたりすることを大切にしたい」と回答。白水先生からは、AIドリルに取り組んでいる子どもたちが、知識と知識を組み合わせる・統合させるような問題に出会うと、自然に子ども同士で見せ合ったり、先生に聞きに行くようになるという事例が紹介された。人は知識を組み合わせて、統合的な新しい問題を解くことに面白さを感じるもので、それこそが教室の中で扱うべき問題だということだ。
畑先生からは、「通常の授業に戻ってからも、事前課題は続けたい」と今後の見通しが示され、さらに、白水先生からは、ブレンディッド授業の可能性として、教室の中だけでは完結しない、教室の壁を超えるような授業デザインが期待されるとして、本日のイベントが締めくくられた。
※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。